フリーフライト模型グライダーのハイスタート発進

作成:滝 敏美
2022年6月7日

ハイスタート発進とは

フリーフライト模型グライダーの発進方法のひとつで,弱いゴムひもとそれより長い糸からなる索を使って,ゴムひもの引張力でグライダーを発進させるものです.1930年代にドイツで考案された方法で,米国には F. Zaicが紹介して広まりました.わが国では曳航による発進方法に比べてあまり使われていませんが,ラジコングライダーでは「ショックコード発進」として知られていたようです.近年,ヨーロッパでハイスタート発進がラジコングライダー(カテゴリー:F3-RES)の発進に用いられるようになり,フリーフライト・グライダーの発進方法としても見直されてきています(参考文献[2]).




ハイスタート発進の動画.機体は翼幅800mmのグライダー.ラインは輪ゴム7.5m+釣り糸22.5m.
最後に中央下に出てくる飛行機は,岐阜基地から離陸したC-2輸送機.

ハイスタート発進の利点

ハイスタート発進の利点は以下のとおりです.

■ 曳航による発進は助手が必要であるが,ハイスタート発進はひとりで発進できる.
■ 手投げやカタパルト発進に比べて,調整が簡単である.
■ 機体の大きさに制限はない.
■ どのような形態の機体(無尾翼機,カナード機等)でも発進できる.

ハイスタートの説明資料

ハイスタートの説明資料(機材の作り方,飛ばし方)をダウンロードするにはここをクリックしてください
技術ノート_13_模型グライダー_飛ばし方A.pdf (2,284KB)


ハイスタート発進の調整法

2022年の飛行機シンポジウムで発表した論文(参考文献[5])からの抜粋です.

(1)フックの初期位置
重心より前方約15度にフックを取り付ける.簡単に確かめるには,フック位置で機体を逆さに吊り下げ,機体軸と水平線のなす角が約15度になるようにする.

(2)機体の手投げ滑空調整
最初に手投げで滑空調整を行い,真っ直ぐに定常滑空するようにする.

(3)ハイスタート発進の試行
機体を左右に傾けないでハイスタート発進を行う.ゴムの伸びは10m程度とする.
・真っ直ぐ上昇する場合は OK.(4)に進む.
・真っ直ぐせず,左右どちらかに曲がり落ちる場合は,旋回癖が残っている可能性が高い.その場合は,旋回癖を修正する.
・旋回癖が無いのに曲がり落ちる場合は,フックを前方に移動する.1回にフックを動かす量は2mm程度とする.
・蛇行しながら上昇する場合,蛇行が小さい場合は OK.(4)に進む.蛇行が大きい場合はフックを後方に移動する.1回にフックを動かす量は2mm程度とする.
・上昇する途中にフックが外れて,機首を上げて失速する場合は,フックの開き角が大きすぎる.フックの開き角を少なくする.
・機体がぐるぐる回転する場合は,垂直尾翼面積が足りないか,上反角が大きすぎる.
・機体が直進,または少し蛇行して上昇するが,最高点に達してもフックが外れない場合は,フックの開き角が足りない.

(4)機体を5度傾けてハイスタート発進
機体をロール軸まわりに5度程度傾けて発進する.
・少し蛇行して上昇するのがよい.
・蛇行が大きい場合はフックを後方に移動する.
・傾けた方に曲がって戻らないのは,上反角が足りないか,垂直尾翼が大きすぎる.

(5)旋回させる方法
わたしが使っている旋回方法は,オートラダー,着脱フィン,偏心フックです.

参考文献

[1] F. Zaic, "Model Glider Design," Model Aeronautic Publications, New York,1944.
[2] "The Flying Aces Club Rule Book,2022-2023," Flying Aces Club.USA.
[3] "What is a Hi-Start ?," http://members.optusnet.com.au/~rlearmont/HiStart.htmlで閲覧
[4] 滝敏美,町田光生,「フリーフライト模型グライダーのハイスタート発進の解析」,JSASS-2021-6008,第26回スカイスポーツシンポジウム,2021年.
[5] 滝敏美,「 模型グライダーのハイスタート発進の3次元運動解析」,JSASS-2022-5039,第60回飛行機シンポジウム,2022年.